そう、それは照りつける日差しが肌を刺す真夏の午前。
イイノはいつも通り楽しくカットをしていた。
その日の服装は半袖の白シャツに七分丈の黒いズボンを履いていた。
この黒いズボンは久しぶりに履いたものだった。
暑いので七分丈だと足元が涼しいと思いこのズボンをチョイスしたのだ。
この選択が後に大変な事態を巻き起こすことなど、この時は知る由もなかった、、、。
カットは順調に進み、仕上げのドライまでして最後に微調整でカットをしようとした時だった。
カットチェアーというイスがあるのだが、そこに勢いよく座った瞬間だった。
「ビリーーッ!!」
割と大きめの音が響いた。
何かが破けるような音だった。
辺りを見回したが特に変化はない。
不思議に思ったが、とりあえずカットを仕上げた。
お客様を仕上げ、お見送りをし、席の掃除をしている時だった。
エアコンの風が妙にお尻を涼しくさせる。
不思議に思い、ふとお尻の方に目を向けると、そこに信じられない光景が目に飛び込んできた。
ズボンが破けてる!!!
目を疑い、しっかりと見てみたがやはり破けている。
しかも、お尻から前の方まで割と大きめに破れているではないか。
これはどうしたものかと思い、いろいろな角度からチェックしてみる。
たまたま黒いパンツ(下着)を履いていたので、パッと見はわからない!いや、わかるだろ!
という自問自答を7回ほど繰り返し、決心した。
新しいズボンを買いに行こう!
そう心に誓った思いとは裏腹に次のお客様が来るまでの時間がすでに迫っている。
ダッシュで買いに行ったとしても、間に合わない。
お客様に説明して買いに行くかどうか本気で悩んだあげく導き出した答えは、、、
ごまかして乗り切ろう!
というものだった。
次のお客様までの残された少ない時間で見える位置、見えない位置を研究するためお尻の自撮りを何回も撮った。
お尻の自撮りをしたのは人生初だった。

だが、そのおかげでパッと見はわからない立ち方を発見した。
もちろん同じ店にいる美容師スタッフも気づいていない。
いける!!
謎の確信を元にお客様を担当した。
その確信は現実となった。
誰にもバレずにお客様を満足させる事に成功した。
誰にもバレずにミッションをコンプリートできた事に喜びと達成感を感じた。
だがしかし、ズボンは相変わらず破れ続けている。
次なるミッションは「新しいズボンを買いに行く」というものだ。
幸い近所にGUがあったのでそこに行こうと心に決めた。
そこまでの道のりは忍びが如くすばやく、隠密行動のように軽快な足運びで目的地に到着する。
だが実際は内股でプリプリ歩いてる変な人だったと振り返ってみると思う。
店内に入り、真っ先に目に飛び込んできた文字があった。
「ストレッチパンツ」
伸びる!破けない!
トラウマになりかけているのでこれ以外考えらないと思い、試着もせずに即購入。
レジでタグを外してもらい、それを持ち、トイレで着替える。
気分は最強の鎧を身にまとった無敵感が溢れ出していた。
実際足を広げてみても、伸びる!破れない!
店に戻り、その無敵感のままお客様を担当したのが功を奏したのか、とても満足して帰って頂いた。
その後は難なく時は過ぎていった。
帰り道を歩いていた。ふと、思った。
今まで一度もあんなふうに破けたことがなかったのになんでだろう?・・・
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「わしのしわざじゃ」
びっくりしてすぐさま辺りを見廻したが誰もいない・・・
そういえば昔「尻裂きジジイ」という妖怪がいるのを死んだ親父が言ってたような言ってないような・・・
きっとこんな妖怪に違いないと思い筆を走らせた。
混乱のせいで画力が低いわけではなく、これが最大限ということだけ付け加えておく。
きっとこの妖怪のせいに違いない。
だが、なんとなく悪い妖怪ではないような気がする。
ズボンの死期に現れるという説もあるので、それで現れたのではないかと今では思う。
そう思うと、誰にもバレないタイミングで破いてくれたことを感謝したい気持ちになってきた。
いつのまにか雨が止んでいた。
清々しい気持ちでふと、空を見上げると・・・・
全てを包み込むように虹が出ていた。
尻裂きジジイの優しさだったのかもしれないな・・・。
帰り道はとても気分がよく帰れた。
おしまい。
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